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恩返し - 聞こえに困っている方へ

 私が要約筆記者になったきっかけは、長男の施設入所でした。長男は重度の知的障害で、常に目を閉じて物を見ようともしない状態、さらにてんかん発作を起こすため、24時間介助が必要です。会話が全くできませんが、奇声をあげ、突然走り出すなどの行動障害があるため街中でトラブルを起こすことも。それでも、将来、自立できることを信じ、その前段階として、親と離れて外出訓練をするサークルを立ち上げました。障害があっても、宇宙のような大きな可能性を秘めていると願いサークル「宙(そら)」と命名。

 毎年、都や区への要請行動にも参加し、親亡き後も地元で長男が暮らせるよう積極的に活動していました。しかし、養護学校高等部卒業後の受け入れ先が見つからず、在宅介護を覚悟。その矢先、自宅から遠く離れた千葉県の施設から息子を受け入れると連絡がありました。この知らせに安堵したと同時に、長男と離れる寂しさ、自宅で育てきれなかった悔しさで胸がいっぱいになりました。 

 長男の施設入所を機に、全ての活動から離れました。今までの努力が無駄に感じられ、障害のある子どもを見るのが辛い時期もありました。同時に長男を入所させてしまったことへの罪悪感にも苦しみました。そんな私の葛藤を見ていた知人から勧められたのが、「要約筆記」でした。今までの経験も生かせるし、聞いたことをわかりやすく文にして伝えればいいのよ、と言われ、気軽に始めたものの、想像以上に難しく何度も挫折しそうになりました。

 先輩や仲間、利用者の皆さんに叱咤激励され今に至っています。要約筆記を見て、うなずいたり、必死にメモを取ったりする利用者の姿が毎日、励みになっています。

 長男は、てんかん発作もなくなり、目を開いて生活できるようになりました。施設は閉鎖された空間ですが、彼には安心して暮らせる場なのかもしれません。長男からもらった大きな財産もあります。彼を通じて知り合った人たちです。

 同じ障害を持つ子どものお母さんたちとは、地元の活動を離れてからも毎日のように連絡を取り合っています。多くを語らなくてもお互いの気持ちを察し、一緒に泣き笑いできる友人がいる私は幸せ者です。

 立ち寄った店の店員や、路上で見知らぬ人に助けられたことも多々あります。

 要約筆記関係でもたくさんの人々からの優しさと励ましにどれほど助けられたことか。いただいた優しさが広がるよう、社会に恩返しをしていきたいと思うこの頃です。

協会ニュース2023年11月号掲載記事より

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