聴きながら・書きながら・反省しながら - 聞こえに困っている方へ
「聴きながら書くのは大変でしょ?」と、よく聞かれます。はい、書きながら聴くのも大変です。「手も疲れるだろうし」。いやいや、手よりも頭を使っているのですよ、これでも…。
通訳の現場で、要約筆記者の頭の中はどのように動いているのか。私の個人的な感覚をご紹介したいと思います。
要約筆記をしているとき、私の頭の中には3人の自分がいます。
まず話しを聴く自分。利用者の立場で、「何を言いたいのかしら」と考えながら聴いています。
2人目は書く(入力する)自分。このときは、話し手の立場で「こういうことを伝えたいんだけれどね」と、まとめながら書いて(入力して)います。
3人目はそれを見て突っ込む自分。「ああ、その一言は余計だわ」「もっとぴったりした言い回しがあるでしょ」と、反省しています。
この3人が同時進行で働く上に、自分の力不足にがっかりしたり、社会の無理解にむかっとしたりもするので、思いのほか消耗します。
聞こえにくさという壁は、自分の努力だけでは乗り越えられません。その壁のために、社会参加の権利を行使できない人がいる現実。それを少しでも何とかしたい。そんな思いで現場に出続けています。
皆さんも自分自身で考えたり、発言したり、一歩を踏み出すために、遠慮なく要約筆記を使ってください。その一歩のために、私たちも日々努力を重ねています。
2014年発行「聞こえのハンドブック」掲載コラム⑥より