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小さな手 - 聞こえに困っている方へ

聞こえを失ったのは、下の息子が4歳になったばかりの時でした。息子は、聞こえない私にいつも口を見せて話をしてくれます。繰り返し聞いても根気よく通じるまで話してくれました。

ある日、何かを飲みたいと言っていますが、私にはわかりません。冷蔵庫の中のものを言っても、「違う」と言います。「じゃあ、ないよ」と言っても、絶対にあると言います。それでもわからない私に、とうとう息子は泣き出してしまいました。

「僕のママは、頭が悪い。僕の言っていることがわからない。僕のママはバカだった!」と泣き叫んでしまいました。

こんな小さな子にそんなことを言わせていることが不憫で「耳が聞こえなくてごめんね」と、私は息子に泣いて謝りました。聞こえないとわかっていたのに言ってしまった息子は、繰り返し「ごめんなさい」と。私は息子と抱き合って泣きました。

暫くすると息子はどこかにトコトコと行き、私の前で何かをやりました。私が不思議な顔をすると、またトコトコと。戻ってくるとまた何かをします。

「アレ?それって指文字のコ?」「うん!うん!」

すると息子はまたどこかへ。こっそり見るとトイレに行って、貼ってあった指文字表を真似しています。しっかり覚えてまた表します。

「ココア?」「うんうん!」

息子は指文字表を覚えると私と会話ができることに気付きました。それからは、何度もトイレに駆け込み、年長さんに上がる前には、私専用の立派な通訳者になっていました。

その様子を見て上の娘と夫も、指文字や簡単な手話を覚えてくれました。
家族の中に居ても孤独だった私を救ってくれたのは、たった4歳の小さな息子でした。

2014年発行「聞こえのハンドブック」掲載コラム③より

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